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減価償却ってなに? お金について考えよう8

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第一章 減価償却ってなに?

 店を始めるために、百万円の業務用オーブンを買ったとする。代金の百万円は、その日に銀行口座から消えていった。ならば今年の経費は百万円、と考えたくなる。ところが会計では、必ずしもそうならない。百万円を払ったという事実と、百万円の費用が発生したという事実は、同じものとして扱われないことがある。

 ここで登場するのが減価償却である。名前だけを見ると、価値が減った分を何かから差し引く、難しそうな制度に見える。しかし基本的な発想は、それほど複雑ではない。何年も使える高価なものを買ったなら、その代金を買った年だけの費用にせず、使う年数に分けて費用として記録しよう、という考え方である。

 たとえば百万円のオーブンを、五年間使うと考えてみよう。話を単純にするため、毎年同じ金額ずつ費用にするとする。すると一年あたり二十万円となる。百万円は最初にまとめて払っているのに、会計の世界では二十万円ずつ、五年間にわたって費用として現れてくる。この毎年計上される費用が、減価償却費である。

 なぜ、そんな面倒なことをするのだろう。理由は、オーブンが一年目だけ働くわけではないからだ。一年目にもパンを焼き、二年目にもパンを焼き、三年目にも働いてくれる。五年間にわたって売上を生み出す道具なのだから、そのためにかかった費用も、五年間に分けたほうが商売の姿を表しやすい。

 もし減価償却をせず、百万円を一年目に全部費用にしたらどうなるだろう。毎年の通常の利益が五十万円だったとすると、一年目には大きな赤字が出るかもしれない。しかし二年目になると、同じオーブンを使っているのに、オーブンについての費用はゼロになる。商売そのものはほとんど変わっていないのに、帳簿の上では一年目と二年目の利益が激しく変わってしまう。

 減価償却を使えば、この不自然さを少し和らげられる。オーブンが五年間働くなら、毎年二十万円ずつ費用として認識する。一年目にも二十万円、二年目にも二十万円、三年目にも二十万円という具合である。すると、その設備を使って生み出した売上と、その設備を使ったことによる費用を、同じ時期に対応させやすくなる。

 ここには、日常生活のお金の感覚とは少し違う考え方がある。普通は、お金を払ったときに「百万円使った」と考える。それは間違いではない。実際に現金は百万円減っている。しかし会計は、それとは別に「今年はいくら分を使ったことにするのか」と考える。現金の動きと、利益を計算するための費用を、いったん切り離して考えるのである。

 この違いは、減価償却を理解するうえで最大のポイントと言っていい。現金が減ることと、費用が発生することは同じではない。百万円を支払った瞬間、財布から見れば百万円の出来事が起きている。しかし利益を計算する帳簿から見れば、その百万円はまだ全部使い切られていない。これから何年も働く設備という形で、価値が残っていると考える。

 たとえば新品の配送用バイクを買った翌日に、帳簿を見てみよう。現金は大きく減っている。しかし目の前には、ほとんど新品のバイクが残っている。お金が消えて何もなくなったわけではなく、現金がバイクという資産に姿を変えたとも言える。そのバイクを少しずつ使っていくにつれて、少しずつ費用になっていく。その過程を数字で表すのが減価償却なのである。

 もちろん、本当に毎年きれいに同じだけ価値が減るとは限らない。自動車なら最初の数年に価格が大きく下がることもあるし、機械なら十年たっても元気に動いていることがある。パソコンは壊れていなくても、性能の進歩によって古く感じられることがある。現実の価値の減り方は、物によってかなり違っている。

 それでも会計では、ある程度のルールを決めなければならない。人によって「このパソコンはあと七年使える」「いや三年で古くなる」と自由に決めていたら、利益の数字を比べにくくなるからだ。そこで、どのくらいの期間をかけて費用にしていくのか、どのような方法で計算するのかという決まりが設けられている。

 減価償却という言葉の「減価」は、価値が減るという意味である。「償却」は、その価値を少しずつ費用として処理していく、と考えると分かりやすい。つまり減価償却とは、長期間使う資産の価値を、一度に消してしまうのではなく、使用期間に応じて少しずつ費用へ移していく仕組みなのである。

 ここで面白いことが起こる。減価償却費を二十万円計上した年に、二十万円の現金が新たに出ていくわけではない。オーブン代はすでに昔払っているからだ。それなのに帳簿上では二十万円の費用が発生し、利益は二十万円少なくなる。つまり「お金は出ていないのに費用がある」という、日常感覚からすると少し奇妙な現象が起こる。

 反対に、オーブンを買った年には百万円の現金が出ていくのに、百万円全部がその年の費用になるとは限らない。「お金を払ったのに、費用にならない部分がある」という現象である。減価償却を知ると、会計にはこうした奇妙な出来事がたくさんあることに気づく。そして、この奇妙さにはちゃんと理由がある。

 会計が知りたいのは、単に銀行口座からいくら減ったかではないからだ。この一年間の商売によって、どれくらいの利益が生まれたのかも知りたい。そのためには、何年も働く設備の代金を、一年だけに押し込めるより、設備が働いた期間へ配ったほうが都合がいい。減価償却は、支払いを記録する技術というより、時間をまたいで利益を測るための技術なのである。

 この考え方を知ると、百万円の機械を買ったという出来事の見え方が変わる。「百万円を失った」だけではない。「百万円を、これから何年間か働いてくれる機械へ変えた」と見ることもできる。そして、その機械が一年働くたびに、機械の価値の一部をその年の費用として認識していく。減価償却とは、物が時間の中で働くことを、お金の記録にも反映させる仕組みなのである。

 だから減価償却は、単なる税金のための難しい計算ではない。もっと根本には「いつの利益と、いつの費用を結びつけるべきなのか」という問いがある。百万円を払った日だけを見るのではなく、その百万円が何年間にわたって働くのかを見る。そう考えた瞬間、お金の世界に「時間」という新しい軸が加わる。

 減価償却を一言で説明するなら「長く使う高価なものの代金を、使う期間に分けて費用にする仕組み」となる。ただし、その短い説明の奥には、現金と費用は同じではないという発見がある。百万円払ったから百万円の経費、とは限らない。最初は妙に感じるこの事実こそ、会計という世界への入口なのである。

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